『真空地帯』 [映画・DVD系]
『真空地帯』(1952)を見た。
主人公である木谷一等兵(木村功)が昭和19年、刑務所から原隊に復帰したところから物語は始まる。彼は所属していた経理部の上官(加藤嘉)の財布を盗んだかどで刑務所に入れられていたのだった。刑務所帰りと知っている隊の上層部、表向き病院帰りと聞かされている中隊の兵士たちは彼の存在をいぶかしがる。唯一彼に好意を持っていた3年兵の曽田だけはあれこれ彼に気を配ってくれていた。彼にとっては、惚れていた女郎屋の女のこと、そして自らを刑務所に送った上官のことがどうしても脳裏を離れない。そうした中、野戦行き(南方戦線へ行かされる)の人選が行われるが、彼の存在を疎ましく思ったある人物の策略により、彼までメンバーに含まれてしまう。曽田から事の真相を聞いた彼は怒りを爆発させていくのだが・・・。
朝から晩、表から裏までの軍隊生活が舞台である。上官から初年兵にいたる厳しい階級序列は敬礼・言葉使い、鉄拳制裁まで容赦なく描かれている。日本の反戦映画は反戦でなく反軍映画だと評する向きもあるが、ここに描かれているのはまさにその代表格だろう。当時の原作者や製作陣、出演者たちの軍隊生活の記憶もまだ生々しく残っていた頃である。その軍隊生活がいかに人間性を奪う「真空地帯」であったのかが、リアルに描き出されていると思う。
二代目水戸黄門の西村晃がエゲツない鉄拳制裁を振るう上官として登場している。さらに三代目黄門の佐野浅夫も同じく先輩風を吹かせる上官として登場している。どちらも水戸黄門のようなのちの温厚なイメージを全く感じさせない怒りっぽいコワーイ奴である。こうした人間性を歪められた兵士たちのなか、インテリで物静かな曽田が印象的だ。
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