映画版『野火』(1959) [映画・DVD系]
映画版『野火』(1959)を見た。
以前、原作を読んで感想を書いたので、あらすじに関してはそれを参照。http://blog.so-net.ne.jp/warabaa/2006-12-09
映画版では、主人公の心の描写があまり表出されていないので物足りない気がした。原作では、主人公の行動と内面を透徹な第三者の視点を交えつつ俯瞰して描いていくのだが、映画版では、そうした側面はなく、事態は淡々と進み、見ている者にはおそらく退屈に感じるのではないかと思う。まあそもそも『野火』の内容自体が、死と隣り合わせた自分自身の生への渇望を、人肉食の現場に居合わせることとの関わりで描いているのだから、非常に暗い話でしかないが。
映画では「猿の肉」を食べようとするが堅すぎて歯が欠け、結局食べずじまい、という設定になっているようだが、原作では、永松に勧められて何度か食べている。そのことは、主人公自身、「猿の肉」といいつつ実は人肉であることを半分悟っていたわけで、自分自身が直接手を下すことには躊躇するのに、なぜ他人を介するとあっさりと(人肉食を)許してしまうのかという問いが投げかけられていることからもわかるように、映画版ではここをやや単純化してしまったきらいがある。また、主人公が極限状態の中で想起する神への祈りというか信仰心が描かれていないこともあり、主人公の内面まで深く切り込むことができていないと思う。
キャストについては、主演の船越英二は好演していたと思うが、私自身は晩年の船越英二しか知らないので、みすぼらしいひげ面の敗残兵を演ずる若い彼を見てもあまりピンとこない(『熱中時代』の校長先生とか『暴れん坊将軍』の2代目爺とかポリデントのおじいちゃんとは思えないってことですw)。むしろ、仲代達矢あたりにやってほしかったと思うのは、『人間の条件』を見てしまったせいだろうか。そのほかのキャストはミッキーカーチス、佐野浅夫、稲葉義男など。
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