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積ん読 その7 [読書不可侵条約系]

久米郁男『労働政治-戦後政治のなかの労働組合』(2005)中公新書

労働政治ー戦後政治のなかの労働組合

労働政治ー戦後政治のなかの労働組合

  • 作者: 久米 郁男
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2005/05/26
  • メディア: 新書

本書を簡単に要約してみる。労働組合は、経済合理性を追求することで労働者の利益さらには戦後日本の成長と安定に貢献したが、悲願である労働戦線の統一すなわち「連合」結成によってその方向性が変わり、労働政策をめぐる政治のあり方も変化してしまった。80年代行政改革に積極的だった民間労働組合が、彼ら主導の労働組合統一を成し遂げたにもかかわらず90年代以後は改革への積極性を失ったのはなぜか?という(久米氏お得意の)「パズルを解く」ことがテーマである。
第1章ではいわゆる利益集団論(多元主義論)による説明、第2章は政治経済と労働組合との関係、第3章は労働政策過程の考察であり、第4章は組合リーダーへのサーベイ調査、第5章以下は戦後労働組合の統一までの歴史、となっている。

労働をめぐる政策過程が90年代に入って変化してきたのはなぜか。本書では3つの説明仮説を挙げる。(1)グローバリゼーション仮説(2)政界再編仮説(3)労働戦線統一仮説、である。

(1)グローバリゼーション仮説
バブル崩壊以降、グローバリゼーションの進展の中で日本型雇用システムが国際競争力の阻害要因としてクローズアップされ、改革が進められた。改革は経営者主導で進められ、従来のようなコーポラティズムでは解決できず、政策形成は政治化した。

(2)政界再編仮説
89年の参議院与野党逆転、93年の自民党下野が、これまでの一党優位体制下で成立したコーポラティズム的体制の変化をもたらした。ウエストミンスター流の政権交代システムが現実味を帯びると、対立する利益は政党を通じて実現されるであろう。90年代に審議会の見直し、連合と自民党の緊張関係が高まったことなども符合する。

(3)労働戦線統一仮説
89年の労働戦線の官民統一がかえってコーポラティズム的な労働政策過程を変化させ、労働政策の決定を政治化した。国家規制を重視する志向が、戦線統一に伴い強まったのではないかという前提がある。「800万」労働者を背景に、政治の場で自らの要求を実現しようとしたために、従来の利益調整枠組みに新たな対立をもたらしたのではないか。

これら3つの仮説は相互に排他的でないとしつつも、著者は(3)の労働戦線統一仮説に軸足を置く。そこで、スウェーデン、ニュージーランド、オランダの事例を検討している。スウェーデンの場合、コーポラティズム体制が、労働組合の政治主義化(と主張されているらしい)によって動揺したこと、さらに、その後は輸出セクターの民間労使が公的セクターに対して優位を回復したことで動揺が収まったことが挙げられる。次に、ニュージーランドとオランダはどちらもグローバリゼーションの中で規制緩和を行い「成功」したとされる国であるが、両者は対照的な軌跡を示す。すなわち、ニュージーランドでは激しい労使対立があったのに対し、オランダでは従来のコーポラティズムが継続していたというのである。両者は第2章で登場した「ハンプ・シェイプ理論」の両極端で成功した、ということになる。ここから導かれるのは、グローバリゼーション仮説がいうように経営攻勢によって政治が収斂するのではないこと、二大政党制であるニュージーランドで激しい労使対立を生んだように、日本でも(二大政党制への期待をはらんだ)政界再編が労働政策過程を変容させた政界再編仮説の妥当性、そしてスウェーデンのように労働組合が政治化したことで労働政策過程を対決的なものにしたという労働戦線統一仮説の妥当性である。その上で、著者は連合が90年代の行政改革にどう対応してきたか、を検証していくのである。そして4章以降で、労働組合の統一までの流れを歴史的に追っていく。
最終的な結論として、労働戦線の統一と団結を急ぐあまり、共産党系労組排除という組織問題の解決で満足し、80年代に確立されたかに見えた民間労組主導の労働運動路線を、官民統一時に連合内で十分に貫徹させなかった、というのが本書のテーマであった「パズル」の解答、ということである。

はたして「ハンプ・シェイプ理論」なるものがどれほど妥当であるのかどうか、また、スウェーデンやオランダ、ニュージーランドの労働組合事情がまったくわからないだけに本書で論じられていることもどこまで正しいのかはよくわからないが、労働組合を利益集団論から分析し、その統一こそが逆に組織の停滞をもたらした、というパラドックスの解明という視点は面白いと思う。ただ、後半の労働組合の歴史の叙述は戦後から現在までに渡っているが、長すぎると思われる。もう少し圧縮した上で、むしろ90年代後半以降、最近までの叙述を増やしてほしかった。


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