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積ん読 その3 [読書不可侵条約系]

森本忠夫『マクロ経営学から見た太平洋戦争』(2005)PHP研究所

マクロ経営学から見た太平洋戦争

マクロ経営学から見た太平洋戦争

  • 作者: 森本 忠夫
  • 出版社/メーカー: PHP研究所
  • 発売日: 2005/08
  • メディア: 新書

本書は『魔性の歴史』(1975)を新書版にしたものであり、特に目新しい発見が付け加わっているわけではないようだ。しかし日本の起こした一連の戦争がいかに非合理的なものであったか、予算配分や資源の輸送など日米の経済データ等を用いてきちんと説明されており、多くの戦争関係書にこうした側面が希薄な中で、なお存在価値を失っていない本だと思われる。本書が指摘する重要な点として、例えば、中国戦線の重荷、兵站・防御の軽視、戦争による経済疲弊などがある。

「刺すべき心臓のない国」中国(満州含む)にどれだけ過剰に戦力が配置され、戦費が投入されたか(太平洋その他戦域への兵力・戦費の足を引っ張ったか)という分析や、南方からの資源輸送が国力維持に不可欠でありながら、輸送手段の不十分さ、さらにはそれを護衛する戦力の貧弱さなど、攻撃一辺倒で兵站・防御をあまりに軽視したことなど、冷静な分析を欠いた当時の戦争指導層に今さらながらあきれかえるばかりである。さらに、戦前戦時中を通じて、日本のGNPが最も高かったのが1939年、すなわち1941年以降の太平洋戦争期間は、日本のGNPはむしろ下降していたという事実は、いったいあの太平洋戦争がなんのためにどのような戦略を持って誰と戦おうとしていたのか、改めてその意味を我々に突きつけざるを得ないと思う。その意味で本書は、「国家経営学的観点ともいえる視点から見た、恐るべき矛盾の再照射」にほかならないわけである。海軍航空隊員でもあった著者の、こうした非合理的な戦争を引き起こした戦争指導層や軍国主義への怒りの大きさがよく伝わってくる。これは、特に軍の組織的構造から戦時中の日本の作戦の失敗を論じた『失敗の本質-日本軍の組織論的研究』とともに、読むべき本であると思う。ところで巻末に参考文献があげられているが、出版年まで記してほしかった。


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コメント 2

黄泉若宮

政治の話は[経済面のみ]を見ただけでは片手落ちになります。
by 黄泉若宮 (2005-10-13 01:28) 

わらばー@見ッチェル

>黄泉若宮さん
コメントありがとうございます。おっしゃる通り、戦争は経済面だけで見てもその全体像は
わからないと思います。この本は、積ん読1で紹介した『日本人の戦争観』の分類に
従えば、70、80年代からでてきた、戦争を経営学的視点から分析するジャンルのひとつだと思います(タイトルからしてそうですが)。ですので、当時の思想状況や外交関係、国内政治の動きなどといった点の分析は希薄です。ただ、私自身不勉強なのですが、当時の外交や軍部の動き、戦闘の様子などを解説した本はいくつか読みましたが、こうした戦中経済的な部分に詳しく触れたものは皆無だったので、逆に参考になるなあと思った次第です。
by わらばー@見ッチェル (2005-10-14 00:17) 

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